床に背中がついた瞬間、多くの人は腕で天井を押し始める。胸は張っている。肩は耳に寄っている。そのとき腰は、もう床から浮いている。

立ったままの筋トレで作った「押す力」は、この位置では先に消える。消える場所は腕ではない。腰だ。

8494

テレビのトークで、「何かあったら守れる」という筋トレ側の言葉のあとに、「守りたいなら柔術をやれ。寝技はできるのか。締められるのか」という切り返しが出た
。ここでは人物評はしない。使うのはこの一点だけである。床の上で相手を止められるかどうかは、立って見せる筋量では測れない。#寝技 #腰

床に背中がついた瞬間、腰はどこへ行くか

今回見るのは目線でも言葉でもない。仰向けになった直後の腰の高さだけを見る。肘が開いて、尻が床から離れた時点で、寝技の話は始まっていない。始まっているのはベンチプレスの模倣である。

ジムのプレスは、背中をベンチに預けて腕と胸でバーを遠ざける。床の上では、相手はそのバーではない。相手は横にも、上にも、自分の脇の下にも入ってくる。腰が浮くと、入る隙間が先にできる。

フルコンの立ち技でも、倒れたあとに同じことが起きる。打ち合っていたときの肩と腕は残っている。残っていないのは、尻を床に預けたまま膝と腰で方向を変える感覚だ。立って強い人が、床で急に軽くなるのは、筋力がなくなるからではない。力の起点が胸に残ったままになるからだ。

ジムのプレスと、寝技の「押す」は別物

筋トレ25年やっている側から言うと、胸と腕が厚いこと自体は悪くない。問題は、その厚みを床でも同じ手順で使おうとすることだ。

寝技で相手を動かそうとするとき、先に動くのは腕ではない。骨盤の向きである。腰が床に残っていると、肘を閉じたまま枠が作れる。腰が浮くと、腕だけが先行して、自分の胸の下に空洞ができる。その空洞に体重を乗せられた時点で、「締める」「守る」以前の話になる。

道場で一度だけ、はっきり見た。胸と腕は十分にある人が、組みの流れで仰向けになった。反射で両手を伸ばし、相手の胸を天井方向へ押した。その瞬間、腰が bridged のように浮いて、相手は押された方向ではなく、空いた脇へ膝を進めた。立ってなら押せた力が、床では隙間を作る側に回った。似て非なる場面は、そこまでである。技名の話ではない。腰が残ったかどうかの話である。

床の上で今すぐ確認できる一つの動き

8495
一人でできる確認はこれだけにする。床に仰向けになる。膝を立て、両肘を脇に閉じる。手で天井を押さない。足裏で床を軽く踏んだまま、腰だけを左右どちらかへ数センチずらす。ずらす途中で尻が床から離れたら、そこで止める。離れた時点で、いつもの「押す」に戻っている。

うまくいくときの感触は地味だ。胸は張らない。肩は上がらない。動いているのは腰の真下だけである。この数センチが出せないと、締める以前に、自分の下へ入られる。出せると、初めて枠の話になる。

「守りたい」を筋力の量で測ると、床に落ちたあとの最初の一秒を見落としやすい。見るなら筋の大きさより先に、背中がついたあとの腰の高さだけを見た方がいい。