甲子園のマウンドに立ち尽くした18歳の右腕が、土を一握りも拾わなかった。涙を何度もぬぐった後、表情が静かに変わった瞬間。あの仕草の奥に何が宿っていたのか。筋トレと空手を25年続けてきた僕の目には、ただの悔しさ以上のものが映ったんですよね。

2026年夏の甲子園2回戦。大分商のエースで主将、最速152キロの二刀流右腕・平田玲翔(3年)は、英明に1-6で敗れた。5回から救援し99球を投げ、6四死球3安打5失点(自責2)。最速は148キロにとどまり、制球が定まらなかった。試合後、あふれる涙を何度もぬぐい、応援席に深々と頭を下げた。

「自分がふがいないピッチングをしたせいで、チームが負けてしまった。申し訳ない気持ちでいっぱいです。最高の仲間に恵まれ、甲子園まで連れてきてもらったのに、恩返しができなかったのが悔しい。甲子園は一番楽しい場所ですし、一番怖い場所でもありました」

そう語った平田は、幼少期からテレビで甲子園中継を見ながらリビングでスライディングをし、服をベースに見立ててベースランニングをしていたという。死にたいくらいに憧れた聖地。なのに土は持ち帰らない。「もう一度、ここに帰ってくるんで。プロで、ここで1勝を挙げると誓ったんで」。涙は乾き、背番号1が静かにグラウンドを後にした。日本ハムの吉村浩常務取締役チーム統括本部長もネット裏から熱視線を送っていた。

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涙をぬぐった後の「乾いた表情」が語るもの

僕がずっと見てきたのは、表情と仕草の機微だ。平田の場合、涙をぬぐう動作がただの感情の吐き出しではなかった。何度も繰り返すうちに、目元の力が少しずつ抜け、最後には表情が引き締まっていく。責任を全部背負い込みながらも、過去に執着しない切り替えの速さ。これが「実力不足だと思います」と潔く言い切れる源になっている気がする。

フルコン空手の道場で、似た瞬間を何度も見てきた。ある日、後輩の黒帯が組手でカウンターをくらい、鼻血を出しながらもすぐに立ち上がった。僕は「ちゃんと休め」と言ったのに、彼は「次の試合で返すから」とだけ言って、血を拭った手で拳を握り直した。あの時の目は、悔しさを飲み込んだ後の静かな光だった。平田の乾いた涙の後の表情と重なる。失敗を土台にして、次の場所へ足を踏み出す人間特有の仕草なんだと思う。

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「土を持ち帰らない」という選択に宿る長期視点

甲子園の土を持ち帰るのは、多くの球児にとって「終わり」の象徴だ。平田はそれを選ばなかった。プロ一本と明言し、「チームを勝たせるエースを目指したい」と語る。50メートル6秒0、高校通算20本塁打の身体能力を持ちながらも、投手に専念する構え。この選択自体が、すでに「通過点」と捉えている証拠だ。

僕自身、ベンチプレスで140キロに挑んだ時、限界でバーが落ちかけた経験がある。その日は記録を更新できず、ただ悔しかった。でも次の日、フォームを根本から見直して「次は必ず超える」と決めた。失敗した重量を「思い出」として残すのではなく、次のセットへの燃料に変える。平田が土を残さなかったのは、まさにそれと同じだ。聖地を「終わった場所」ではなく「再び勝つ場所」に書き換えている。

以前、似た決意を見た記事でも触れたけれど、あるアスリートが敗退後に見せた「静かな目」の話でも、過去を手放す強さが共通していた。平田の場合、それがさらに明確に「プロで甲子園1勝」という具体的な誓いになっている。

吉村本部長の熱視線が示すもの、そして人間関係の機微

スカウトが通常の視察を終えた後も、日本ハムの吉村浩常務が姿を見せた事実は重い。152キロの球速だけではない。責任を一身に引き受け、悔しさをバネに変えるメンタル。プロの世界で長く生き残る選手に必要な「本音の強さ」を、すでに持っていると見られたのだろう。

道場で後輩を指導していた頃、強い選手ほど試合後の反省が短く、次の課題にすぐ移る傾向があった。平田の「今回出た課題を次の進路に向けて全力で改善したい」という言葉は、まさにそのタイプだ。ファンの間でも「かっこいい」「また戻ってきてほしい」という声が自然に広がっているのは、この人間ドラマの機微が伝わっているからに他ならない。

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この話を読んでいてふと思い出したんですが、限界を感じてフォームを根本から変えた経験のある人なら、キャロル・ドゥエックの『マインドセット「やればできる!」の研究』が刺さるかもしれない。成長思考を具体的にどう日常に落とすかが、平田の選択と重なる部分が多い。僕自身、ベンチプレスの停滞期にこの本を読み返して、記録更新のきっかけにしたことがある。

マインドセット やればできる!の研究
マインドセット「やればできる!」の研究(キャロル・S・ドゥエック)

以前書いた甲子園で見せる球児の「切り替えの瞬間」特集でも感じたことだが、平田のような選手は、ただ速い球を投げる存在ではなく、観客の心に「次」を想像させる力を持っている。

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平田玲翔が土を持ち帰らなかった理由は、単なる「かっこつけ」ではない。幼い頃から憧れた場所を、未来の自分のホームにするための選択だ。涙を乾かした後の表情に、僕は「またここで会おう」という静かな宣言を見た。あなたはあの仕草から、どんな本音を読み取りましたか? プロの舞台で彼が再び甲子園に立つ日、どんな表情を見せるのか。一緒に想像してみたい。

ソフトマッチョ(筋トレ25年・アマチュアフルコン空手)

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