ムエタイの聖地で初めて舞ったワイクルーのあと、彼女の首が何度も横に振られた。あの小さな動きに、私は25年の筋トレとフルコンタクト空手で培ってきた「体が本音を語る瞬間」を見てしまったんです。
2026年8月1日、タイ・ラジャダムナンスタジアム。RWSプレリム第1試合。ぱんちゃん璃奈(本名・岡本璃奈)が本格ムエタイデビューを果たした。相手はわずか15歳、SRC女子ミニフライ級王者のノンギフ・チョー・ハパヤック。戦績55勝5敗というキャリアを持つ少女だった。
結果は判定0-3、ジャッジ全員がフルマークの30-27。首相撲と膝蹴りの連続で、彼女の得意とする距離を完全に封じられた完敗だった。
試合前、彼女はリラックスした顔で入場し、リングを笑顔で一周したという。初めてのワイクルーも堂々と舞った。あの笑顔は本物だったと思う。だからこそ、ラウンドが終わるたびに首をひねる仕草が、余計に痛々しく映った。
1R、ゴングと同時に前に出たぱんちゃんはローキックを放つ。しかしノンギフはすぐに組み付き、いいポジションを取る。突き放しても、また首相撲。左右の連打を繰り出しても、首をコントロールされて膝が飛んでくる。2R、セコンドの小笠原瑛作氏が「下がらないで前へ」と檄を飛ばした。彼女もワンツーで圧力をかけようとした。けれど、組まれては膝、離れては右ミドル、また組まれる。3R、右肘を打っても崩され、最後まで首地獄から抜け出せなかった。
私はフルコンタクト空手の道場で、似た場面を何度も見てきた。相手が組んでくるのを「避けよう」とする瞬間、足が止まり、上半身だけが逃げようとする。そのとき首の角度が、ほんの少し内側に傾く。体が「もう無理だ」と先に告げているサインだ。ぱんちゃんがラウンド終了時に首を大きく横に振ったのは、まさにそれだったんじゃないかと思う。
15歳のノンギフがここまで上手いのは、驚異というより「当たり前」なのかもしれない。タイの子供たちは、小学生のうちから首相撲の感覚を体に染み込ませる。日本人の私たちが「テクニック」として学ぶものを、彼らは「遊び」の延長で身につけてしまう。55勝5敗という数字は、ただの数字じゃない。毎日のようにリングに上がり、首と膝で相手の体力を削る経験値の塊だ。
ぱんちゃんはキックボクシングのリングでは、スピードとパンチの回転で相手を圧倒してきた選手だ。グラビアやバラエティで親しまれ、「筋肉美女」として注目を集めた時期もあった。でもムエタイの首相撲は、彼女の「良さ」を根こそぎ奪う。距離を取らせず、体を密着させ、首を固定して膝を叩き込む。去年12月のKNOCK OUT-REDルールでのサネーガーム戦でも同じパターンだった。今回は本場ラジャで、さらに純度の高い「首地獄」を味わった形になる。
筋トレを25年続けていて、痛感していることがある。体は嘘をつかない。ベンチプレスで限界に近づいたとき、私は必ず首を後ろに反らせてしまう癖があった。フォームを根本から直すまで、何年もかかった。「まだいける」と頭で思っていても、首の緊張が先に本音をさらけ出す。道場で後輩が組手で追い詰められたときも、同じだった。顔は必死に強がっているのに、首の角度だけが「助けて」と叫んでいる。ぱんちゃんのあの首振りは、リング上で体が発した正直な声だったんだと思う。
ファンの反応を見ていると、「かわいい」「頑張った」という声と、「やっぱりムエタイは違う」「距離が取れない」という冷静な指摘が混在している。どちらも正しい。彼女はまだ32歳。プロキャリアは決して長くない。ムエタイという新しいルールに、本気で向き合おうとしている姿は、はっきりと伝わってくる。ワイクルーを初めて舞ったときの表情には、純粋な挑戦者の光があった。
でも、残酷な真実もある。ルールが変われば、強さの定義も変わる。キックで培った「中間距離の支配」が、ムエタイでは「逃げ場のない密着」に変わる。私自身、フルコンタクトから他の格闘技に触れたとき、同じ壁にぶつかった。組まれることを「嫌だ」と思う瞬間に、すでに負けが決まっている。相手の首に自分の腕を回し、体重を乗せてコントロールする感覚は、筋トレで培った体幹だけでは足りない。毎日のように組み合う経験値が必要になる。
ぱんちゃんがこの敗戦から何を持ち帰るか。私はそこが一番気になる。涙を流した前回のREDルール敗北から、約7カ月。彼女は減量をしっかりこなし、腹筋をバキバキに仕上げてタイに乗り込んだ。準備はできていた。それでも勝てなかった。これは「準備不足」ではなく、「ルールの壁」そのものだ。
道場で後輩が初めて本格的な組手に敗れたとき、私はこう言ったことがある。「負けた瞬間の首の角度を、忘れないでくれ。それが次のスタートラインだ」と。ぱんちゃんの首が横に振られたあの瞬間は、きっと彼女自身にとっても、忘れられないスタートラインになるはずだ。
ムエタイの聖地で、15歳の少女に完封された。でも、彼女はまだリングに立ち続けている。この先、首相撲の感覚をどこまで自分のものにできるか。それとも、キックの原点に戻るのか。どちらを選んでも、彼女の人間ドラマは続きそうだ。
あなたは、あの首を振る仕草をどう見ましたか? ルールの壁をどう乗り越えるべきだと思いますか? コメントで教えてもらえると嬉しいです。
このテーマに関連して、ムエタイの本質やメンタルの向き合い方を考えるうえで参考になりそうな本を挙げておきます。興味があれば手に取ってみてください。


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